パイロットフィルムから始まる映画制作
片渕須直監督作品の「この世界の片隅に」と「つるばみ色のなぎ子たち」のパイロットフィルムの制作の経緯や本編との違い、そしてパイロットフィルムというもの自体について語ります。
パイロットフィルムとは、映画や番組を制作する前に、テストとして作られる映像のこと。企画書や脚本だけでは判らない作品の魅力を、実際に映像化することで伝わりやすくし、制作チームや製作資金を集めるために活用されています。
私たちはこのパイロットフィルムこそ、「この映画を作りたい!」という作り手たちの情熱がもっとも凝縮された、一番刺激的な映画の原石だと思っています。しかし、パイロットフィルムはあくまでテスト映像であるため、これまでなかなか一般の方々の目に届く機会がありませんでした。そこでこの度「渋谷パイロットフィルムフェスティバル」を開催することで、もっとたくさんの人にこの熱い映像たちを観ていただきたいと考えました。
本イベントは、貴重なパイロットフィルムの特集上映と、様々なプロセスで映画作りにチャレンジし続けている多彩な登壇者によるトークイベントで構成されています。映像作品とトークを通じて、作り手の熱量を感じていただき、これまでとこれからの映画制作プロセスに触れることで、映画作りにチャレンジする人や、応援したい人をもっともっと増やせたらと願っています。
片渕須直監督作品の「この世界の片隅に」と「つるばみ色のなぎ子たち」のパイロットフィルムの制作の経緯や本編との違い、そしてパイロットフィルムというもの自体について語ります。
新たな形の映画製作を目指してK2 Pictures を創業した紀伊宗之プロデューサーと、世界に挑戦する映画製作レーベルとしてNOTHING NEWの旗揚げをした林健太郎プロデューサーの対談。今お二人が考える「映画の未来」をお聞きします。
2021年にテレビで放送され瞬く間に話題になった「オッドタクシー」。監督とプロデューサーの出会いと、作品ができるまでの道のりを語ります。絶賛制作中の新作「ホウセンカ」についての最速情報も。
日仏合作にて制作し、カンヌ国際映画祭にて上映された「化け猫あんずちゃん」。一風変わったロトスコープの使い方や、制作の紆余曲折をお話しします。
20世紀初頭に活躍した漫画家・アニメーション作家であるウィンザー・マッケイの代表作「夢の国のリトル・ニモ」。1980年代、これを日米にまたがる超大作として製作するという無謀な企画に挑んだ人々がいました。パイロット制作に至るまでを映像研究家・叶精二が語ります。
HIDARIとKILLTUBEという、今話題のパイロットフィルムを制作した監督たちが、パイロットフィルムの価値や、その可能性について制作プロセスとともに語ります。
※全プログラム予告編なしで上映スタートいたしますので、
お時間に余裕を持ってご来場ください。
監督からのコメント:
こんな言葉をもらいました。
「片渕監督のアニメーションは他のどれにも似ていなくて、それ自体がひとつのジャンルだと言っても良いのでは」
晴れがましい言葉です。でも、何にも似ていない作品を作り出すのは、つねに新しい道の開拓になります。こんな作品を作り出そうとしているのだということを世の中に認知していただくための。
そうした理由から、「この世界の片隅に」(2016)では、早くも2012年から、事前プロモーションをメインスタッフたち自身の手で開始しました。ポスターを自作し、作中ですずさんが作る戦時料理を作る会を催し、ローケーション現地を歩く会を行い。そうした最終段階として、本格的なパイロットフィルムを作るための資金を集めるクラウドファンディングを2015年に行いました。それは大成功に終わり、本編の制作につながってゆきました。
監督からのコメント:
映像制作未経験の状態から独学で制作した自主制作のコマ撮りSF短編作品。YouTube公開後に海外スタジオからもオファーが続出し、2021年公開の長編作「JUNK HEAD」のきっかけとなる。現在続編となる「JUNK WORLD」を制作中。
「つるばみ色のなぎ子たち」は、私たちが今現在制作中の長編映画です。これまで一般に認識されていなかった1000年前の世界を描こうとしています。雅やかな十二単姿の平安時代のイメージは、スタッフ独自の史的調査により、黒つるばみ色の喪服を絶えず着ていた時代の姿に塗り変えられます。
©つるばみ色のなぎ子たち製作委員会/クロブルエプロデューサーからのコメント:
1980年に第4回日本SF大賞を受賞した漫画「童夢」を原作にした実写版のパイロットフィルム。
おそらく20年以上前から「実写で童夢を」という話しを飲み屋のカウンターでしていました。先ずはパイロットからと意気込んで制作したことを覚えております。団地の廊下をセットで作り込むなど、パイロットとしてはかなり豪華にセットを組んで撮影しました。
プロデューサーからのコメント:
本編制作を見越して、パイロットフィルムから日本とフランスのスタッフの共同制作として作成致しました。本編同様キャラクターのアニメーションやコンポジットは日本担当、背景美術と色彩設計はフランスでの作業となりました。制作スタイルの違いやコミュニケーションミスなどもあり、3分間の映像をつくるだけでもとても苦労した事を覚えています。なので、日仏どちらもその苦労を味わった事で、本編制作の時には改善点の確認から入ることが出来、とても有意義なパイロットフィルムになりました。
アニメーションの制作テストのみならず、出資者・賛同者に自分たちがつくろうとしている映画がどういうものか説明する為の映像としてもとても効果的でした。このパイロットを観て、日本の配給会社、フランスの配給会社、国際セールスが結びつき、本編を制作する為の座組が整いました。
監督からのコメント:
この作品は私が専門学校の卒業制作としてつくったパイロットフィルムです。「とにかく頭を使わなくていい、ひたすら楽しい映像」をコンセプトに制作しました。
日本のCGアニメーションはどうしてもセルルック(手描き風のスタイル)が主流になっているが、3DCGという技術の利点を最大限に活かせるのは、やはりフル3D(リアル系のルック)なのではないか、という思いからこのスタイルになりました。また、昔よく見ていた50年代の短編アニメーションの影響で、音楽に合わせて展開する演出にもこだわっています。
とあるアニメ製作会社様が、この作品に興味をもっていただき、現在は同じようなスタイルで、12話構成のシリーズを制作しています。
企画・製作担当プロデューサー 渡辺繁氏からのコメント:
本パイロットフィルムは1984年12月24日に設立された(株)ガイナックスから(株)バンダイへ提案された「王立宇宙軍」という企画を映画化するステップとして製作されたものです。
バンダイでの製作投資稟議決済は1985年1月16日。新宿区内諏訪町のマンションの一室に構えられたガイナックスの最初のスタジオで制作されました。
制作プロデューサーは岡田斗司夫、井上博明の二氏。原案・絵コンテは山賀博之氏。キャラクターデザインは貞本義行氏。メカニカルデザインや作画で庵野秀明氏らが参加しました。音楽はワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。音響監督は斯波重治氏です。
原版は35ミリ。音声はモノラル。初号試写は1985年4月9日16時、場所は調布の東京現像所。最初は16ミリでの試写。35ミリ版試写は5月24日17時からでした。
これを社内外に見せて感触をとった結果、宮崎駿氏や押井守氏らの強い推薦もあり、バンダイ製作で正式に映画化することが決められ、ガイナックスの早稲田三丁目、吉祥寺スタジオを経て1987年に完成。東宝東和の配給で3月14日(地方は3月21日)から全国104館で4週間公開されました。
※今回の上映音声は川井憲次氏がシンセサイザーの打ち込みで制作したものです。
※バンダイが製作し、現在はバンダイナムコフィルムワークスが映像事業を継承しています。
監督からのコメント:
三丁目の夕日は、去年亡くなった阿部秀司プロデューサーがどうしても作りたかった映画でした。最初は皆、僕も含めて「昭和の映画が当たるわけない」と反対していました。阿部さんの構想を皆あまり理解出来ていなかったのだと思います。
昭和を主役にした映画というと、ちょっとした路地のような小さなセットを中心に地味に話が進みそうです。しかし阿部さんはあの当時の東京そのものを主役に、劇場自体をタイムマシンにするような映画を構想していました。これは言葉ではなかなか通じるものではないので、皆の気持ちを大きく変えるべくパイロット版の制作が決まりました。
おなじみ東京建物園に大掛かりな美術を入れたロケから始まり、古民家のロケセット、そしてCGによる東京の町並みと、作りかけの東京タワー。なかなか大きなお金が動いたと思いますが、このパイロットの効果は絶大でした。
まずキャスティングがこのパイロット以降とてもスムーズに進みました。出資もかなり集まりやすくなったと聞いています。皆、阿部さんが本当は何をしようとしていたのか、このパイロットを見てようやく理解したのだと思います。そういう意味で、これはまことに正しいパイロットだったなぁと思うのです。
監督からのコメント:
2020年5月に「ひな」の劇場アニメーション映画企画を立ち上げてから3年、多くのスタッフ、キャストの方々にご協力いただき、ようやく3分ほどのパイロット・フィルムを作ることができました。
新井英樹さんが描くキャラクターの躍動感、感情表現、物語の疾走感など、アニメーションととても相性が良いのではないかとずっと感じていたので、この数年間は新井漫画を何度も読み返しながら映像化のイメージを膨らませてきました。
まずはそのほんの一部を映像にしましたが、本編制作に至るまではまだまだ長い道のりなので気長に待っていただければ幸いです。
プロデューサーからのコメント:
2015年に当時MAPPAの社長だった丸山正雄と一緒にプリプロ会社「スタジオM2」を設立して「PLUTO」の企画を立ち上げた。もともと営業的にも制作的にもプリプロの重要性を感じていた私はパイロット映像を作ることに決めた。この作品は手塚治虫の鉄腕アトム「史上最大のロボット」を浦沢直樹/長崎尚志がリメイクした、何とも凄まじくハードルの高いアニメ化だった。これからお見せするパイロット映像は非常に高いクオリティで浦沢さん/長崎さんから了解は貰えたものの、営業したNetflixからは8時間全編このクオリティを維持するならばディールすると超大変なリクエストが付いたのだった・・・
作品情報:
ちばてつやが1963年に『少女フレンド』で連載していた少女漫画「ユキの太陽」のTVアニメ化検討用パイロットフィルム。テレビ版本編は制作されなかった。
作品情報:
米漫画界の巨人ウィンザー・マッケイの代表作「夢の国のリトル・ニモ」。主人公ニモが眠りに落ちる度に「夢の国」で冒険を繰り広げるこの新聞漫画を長編アニメ化する準備として、1980年代に2つの短いテスト・フィルムが作られた。そのうちの1本、往年の東映動画の流れを汲む近藤喜文&友永和秀組によるパイロットフィルム。
プロデューサーからのコメント:
企画成立を目指して、出資営業用に作成したテストカットです。当時、監督の木下が1人で作っており、本編には登場しなかったキャラクターがいます。ルックテストのために作られたので、この時点ではまだ音声は入っていません。ファミリー向けに見られがちな企画だったので、夜の街で展開する、大人が楽しめる作品だということを伝える一助になりました。その後、2021年にアニメがオンエアされ、映画化、舞台化を経て、2024年には実写ドラマ「RoOT / ルート」の放送と様々な展開に繋がりました。
監督からのコメント:
「もしも鎖国が終わることなく、江戸の時代が続いていたら一体どうなっていたのか?」中学生の時から、そんな妄想をしていました。2021年、本格的に世界に打って出る作品を考えた時にその妄想を思い出し、動画文化とも掛け合わせることで、見たことのない世界が生み出せると確信してプロジェクトをスタートしました。「やるからには劇場アニメで」という思いからまずはパイロットの構想を始めましたが、2年をかけて作り出したそのフィルムを公開したところ、想像を超える反響を頂き、結果劇場アニメを実現する糸口を見つけることができました。現在、2026年全世界公開を目指して、制作を進めています。
監督からのコメント:
完全オリジナルな長編コマ撮り映画の企画を構想し始めた時、コマ撮りでしかできない表現ってなんだろうと考えました。その時CGでは再現できない「モノの質感」がそれなのではないかと思い至り、さまざまな素材を軸にアイデアを考えていた時、左甚五郎という伝説的な彫刻職人のことを思い出しました。実在したか分からない彼の物語を、彼が彫ったような木彫人形を使って描けたら、世界が驚くような新しい映像が作れるのではないかと。しかしこの新しさは、言葉で説明してもなかなか伝わりにくい。そこでまずはこの作品の魅力を最大限に伝えられるようなパイロットフィルムを制作することに決め、約1年半かけてこの5分半の映像を完成させました。このフィルムのおかげで、「長編版がぜひ観たい!」という声を世界中からいただくことができ、様々な映画祭での上映や受賞を通じてファンや支援者の輪を広げることができました。その裏で、今まさに長編映画化実現に向け、脚本の執筆やハリウッドを中心に営業活動を進めています。
プロデューサーからのコメント:
「オッドタクシー」の此元和津也(原作・脚本)✕ 木下麦(監督・キャラクターデザイン)タッグによる長編アニメーション映画です。アヌシー国際アニメーション映画祭 ワーク・イン・プログレス(制作中)部門エントリー用に作成したティザー映像です。この時はまだ作画に入っていなかったため、作品全体の雰囲気を伝えるための映像として制作しました。エントリーまで時間が限られていたので、ほぼ木下監督ひとりで制作したものです。
本作はワーク・イン・プログレス部門に選出され、現地でプレゼンテーションを行ってきました。再びアヌシーで上映できるよう、現在鋭意制作中です。
作品情報:
1969年、劇場公開の長編制作を目指して、画面の縦横比1:2.35のシネマスコープ・サイズで制作された一番最初の試作品=パイロット・フィルム。前年から青年向けコミック誌「漫画アクション」(双葉社)で連載が始まったモンキー・パンチの原作エピソードを元に、劇場用アニメ企画として映画会社にプレゼンするために制作されたパイロット版。メインのキャラクターとそれぞれの関係性を紹介する短いストーリーで構成されている。
プロデューサーからのコメント:
公開撮影と言う「場」が先にあり、このチームでの初めての自主プロジェクトとしてつくったのがこの「はじめのいっぽ」です。
最初は短編として作ったこの作品をどうするべきかも想像できていなかったのですが、ご縁で劇場にかかる機会に恵まれ、そのまま劇場版の制作に結び付きました。本当に幸運とご縁でそこまで行きつき、みんなの人生が少しずつ変わり、そして、20年経った今年も「こまねこ」を作り続けられる。人生は不思議だな、と思いますが、都度都度、来たチャンスを(こま撮り屋でも)スピーディにつかむことが大事だと教えてくれた作品でもあります。
監督からのコメント:
映像制作未経験の状態から独学で制作した自主制作のコマ撮りSF短編作品。YouTube公開後に海外スタジオからもオファーが続出し、2021年公開の長編作「JUNK HEAD」のきっかけとなる。現在続編となる「JUNK WORLD」を制作中。
プロデューサーからのコメント:
この作品は、冨永監督が人気ドーナツ屋さんの行列を見て「スイーツにも流行り廃りがあって大変だな」と思ったところから生まれた内容になります。
日々疲れた時やちょっとした休憩時に食べるスイーツやお菓子が、実は彼らが自分の脳内で闘っている…というファンシーさとバトル性をかけ合わせたストーリーです。
また本作品は主人公プルーがぽよんぽよんぷるんぷるんするシーンが多くあり、"みていて気持ち良い"そして"何回も見たくなる"アニメーションになっています。
ご自身が今日食べたスイーツを思い出し、どのようなバトルが脳内で繰り広げられていたか想像しながら見ていただけると嬉しいです。
プロデューサーからのコメント:
「パンが主役のこんな企画はどうかな...」
監督の市川がある日、今回のアニメのお話をきかせてくれました。
そして、夜な夜な絵を描いて、つなげて、見せてくれました。
最高に美味しそうで、かわいいアニメができる予感がしました。
本作は、パンの赤ちゃんたちが力を合わせて泥棒を撃退する(?)お話です。
夢のように素敵な皆様に声を吹き込んでいただき、アニメーターの皆さんが、細部にまでこだわりを尽くし、キャラクターたちに命が芽生えた気がしています。
"パンの赤ちゃん"たちを見守る4分間。どうぞ楽しんでください。